秋田地方裁判所 昭和33年(行モ)1号 決定 1958年9月01日
申請人 古河林業合資会社
被申請人 秋田県収用委員会
主文
被申請人が起業者古河鉱業株式会社、土地所有者申請人会社間の鉱業のための土地使用許可裁決事件につき昭和三三年四月二五日為した緊急土地使用許可は、当庁昭和三三年(行)第四号緊急土地使用許可決定取消請求事件の判決確定に至るまでその執行を停止する。
理由
申請人代理人らは主文同旨の裁判を求め、その理由とするところの要旨は、
『(一) 被申請人は起業者古河鉱業株式会社、土地所有者申請人会社間の鉱業のための土地使用許可裁決事件につき、昭和三三年四月二五日別紙記載のような内容の緊急土地使用許可決定を為し、該決定書正本は同年五月一〇日申請人に送達された。
(二) 申請人は、右許可決定は次のような理由によつて違法且つ不当な処分であるから取り消さるべきものとして、昭和三三年五月二二日訴を提起し、御庁昭和三三年(行)第四号緊急土地使用許可決定取消請求事件として係属中である。即ち、
(い) 土地収用法一二三条には緊急土地使用許可の要件として、(a)同法四一条の規定による裁決申請に係る事業を緊急に施行する必要がある場合なること、(b)同法四八条一項の規定による裁決が遅延することにより事業の施行が遅延すること、(c)その遅延の結果、災害を防止することが困難となり、その他公共の利益に著しく支障を及ぼす虞のあること、が規定されているが、本件許可決定における右各要件の認定は頗る不充分且つ誤認である。先ず、右(a)の必要性の点については何ら認定されていない。右起業者が土地使用を必要とするのは阿仁鉱山経営のためであるが、阿仁鉱山における坑内運搬系統の合理化及び坑内七十枚地区探鉱事業は緊急に行う必要ありと認め難い。また、右(b)については、事業の施行が遅延することは起業者たる古河鉱業株式会社が事業計画を適当に変更することにより回避できるものであつて、右計画の変更は同会社として不利益を蒙ることなくして容易に為し得るものである。更に右(c)の要件も存在しない。本件許可決定中に「このように当初計画がすでに二ケ年を経過して今尚使用できないため廃石捨場は満杯であり、民家及び町道上部に堆積して居る廃石は崩壊の危険にさらされて居り、保安上危険があるとの仙台通産局保安部より指摘されている。」とあるが、この廃石捨場とは、従来の鉱業から生ずる廃石の捨場を云うものであつて、本件裁決申請に係る土地とは全く関係のないものである。なお、若し既設の廃石捨場が満杯となり右のような危険にさらされているのであれば、擁壁、石垣等の施設を構築して石礫の崩壊、転落を阻止するか、または捲揚装置によつて廃石をピラミツド型に積み上げることにより、更に捨場の収容力を増すことが容易にできるものであつて、申請人所有土地を新に使用する必要はない。
(ろ) 本件許可決定の前提たる仙台通産局長の昭和三二年六月七日付土地使用許可は、(イ)新通洞坑の開設場所につき、土地所有者たる申請人の主張を具体的資料に基づいて充分検討していない。(ロ)使用を許可した土地の区域が確定されていない。(ハ)右申請にあたつて、起業者たる古河鉱業株式会社は前示鉱山の鉱区につき持分平等の鉱業権を有する共同鉱業権者たる申請人会社と何ら協議をしないで単独に為されたものである。以上のような明白且つ重大な違法を犯してした仙台通産局長の前示決定は当然無効である。従つて該決定を前提とした本件許可決定はこの点でも同様違法無効である。
(三) 右許可決定が執行され、本件土地がその使用目的とされている新坑口開設用地及び廃石捨場用地として使用されることによつて、申請人は償うことのできない損害を蒙る。即ち、
(イ) 予定地に新坑口が開設されると、坑内の湧水が坑口から流出するので、その下方に当る申請人会社の木材土場は湿潤し、常に乾燥していることを要する土場の使用価値を甚しく損うこととなる。しかも、坑口の開設には莫大な費用がかかるので、一度開設された坑口を放棄して新たに別の坑口を開設することは経済的に殆んど不可能であるが、仮に経済上可能としても、一且開設した坑口は土石をもつて充填しても完全に原状回復することは事実上不可能であるため、湧水は依然として右坑口跡から下方の土場へ流出する。
(ロ) 予定地に廃石を堆積されると、申請人会社がこれを木材土場として使用することはできなくなる。即ち、一旦堆積された廃石を撤去することは多額の費用がかかるので経済的に不可能であるが、仮に撤去し得るとしても小石をも完全に撤去することは事実上不可能であるから、残存する小石が木材に喰い込み、これを製材機械にかけることができないから、結局、木材土場としては到底使用に堪えられなくなる。
(四) 以上の如く本件許可決定の執行により申請人は償うことのできない損害を蒙るのであり、しかも右決定に示された本件土地使用の条件は単に「廃石堆積場から石礫の崩落、捨石、鉱さい処理に伴う危険の防止等に必要なる措置を講じ、境界線に施設すること。」とあるに止まり、簡単に成就し得るものであるから、右損害を避けるために緊急を要するので、本件許可決定の執行停止を求める次第である。』と云うにある。
当裁判所は、申請人提出の疎明資料並びに申請人代理人小川保男及び被申請人代表者各審尋の結果に徴し、申請人の本件申請を理由あるものと認め、行政事件訴訟特例法一〇条二項に基いて主文のとおり決定する。
(裁判官 小嶋弥作 長井澄 三好清一)
(別紙)
許可決定の内容
昭和三十三年二月二十八日付阿仁鉱山鉱業用地の緊急土地使用許可申立については次のとおり許可する。
主文
一、使用土地の区域
土地の所在地
地番
地目
土地台帳の面積
使用許可実測地積
土地所有者
秋田県北秋田郡阿仁町小沢鉱山字小滝
八二五の七〇
山林
九九町七反八畝一九歩
九八八・三一坪
東京都中央区日本橋室町二丁目二八番地
古河林業合資会社
代表社員 立石巌夫
二、使用方法
新坑口開設用地及び廃石場用地
三、条件
廃石推積場からの石礫の崩落、捨石、鉱さい、処理に伴う危険の防止等に必要なる措置を講じ境界線に施設すること。
四、担保額
四八六、二一〇円
五、使用の期間
秋田県収用委員会が諸要件を満足したと認めた日から六ケ月間
理由
(1) 土地収用法第四十九条に基き裁決事項の一部裁決が決定した。
(2) 本件は昭和三十一年三月以来土地所有者にその借用方交渉したが承諾を得ることができず、為めに昭和三十一年八月十六日仙台通商産業局長宛土地使用の許可を申請、昭和三十二年六月七日三二年仙台通産第四一一八号をもつて土地使用の許可を受け、昭和三十二年六月二十七日秋田県知事の土地細目の公告を経た後、更に土地所有者と協議したが不調のため、昭和三十二年八月八日裁決申請が出され今日に至つている。このように当初計画が既に二ケ年を経過して今日尚使用できないため廃石捨場は満杯であり、民家及び町道上部に堆積して居る廃石は崩壊の危険にさらされて居り安保上危険があるとの仙台通商産業局保安部より指摘されている現状であり、且つ本委員会の現場検証の結果に鑑み本件土地は緊急使用の必要に迫られているものと認定する。